column 2024.3.13
 
Rトピックス

これからの「HOUSE for LOCAL」 〜家の中も外も人も豊かな街づくりへ〜

原さわこ(神戸R不動産/HOUSE for LOCAL)
 

兵庫・大阪で活動する工務店6社による、家づくりのあり方そのものを啓蒙する社会活動「HOUSE for LOCAL -風土と暮らす木の家-」。神戸R不動産もその活動のお手伝いをしてきました(過去のコラムはこちら)。
昨今、平屋や小さな家を求める方が増えてきましたが、家そのものがコンパクトになる中で豊かに暮らすために地域工務店ができることってなんでしょうか。HOUSE for LOCALが考える、これからの時代に大切な家づくり、ひいては街づくりの展望をお話しします。

HOUSE for LOCALのメンバー。左から、赤井(あかい工房)、大塚(大塚工務店)、福田(フクダ・ロングライフデザイン)、大前(大市住宅産業)、小谷(コタニ住研)、本(いなほ工務店)

「小さい家」が求められる近頃の家づくり事情

HOUSE for LOCALの活動に参加している工務店6社のもとに寄せられるお客様の要望として、近年は「平屋」もしくは「小さい家」を希望される声が多くなってきました。以前よりも1割程度小さい坪数の住宅が求められている印象です。この背景には、2021年以降のウッドショック(*)や国際情勢に起因する建築資材の高騰が大いに影響しているものと思われます。

(*)ウッドショック:新型コロナウイルス感染拡大に伴い、世界的にの住宅需要が急増したことに起因する木材不足、価格高騰のこと。

すべてを職人に任せるのではなくできるところは自分でつくる「ハーフビルド」で建てられた平屋

また、多くの世帯が夫婦共働きで、我々のお客様も忙しい生活を送るご家族が多いようです。

例えば、家事の簡略化のためにガス乾燥機やお掃除ロボットなどの家電を導入したいという声も増えています。よって、間取りを考える時にそういった家電置き場についても考慮しなければなりません。逆に洗濯物を外干ししないためバルコニーは必要ない、掃除も面倒なのでつくらないでほしいといった要望も。

左:ガス乾燥機置き場を考慮した造作/右:ロボット掃除機を使用する家庭が増えている

コロナ禍を経た上での傾向で言うと、リモートワークができるデスクスペースをつくってほしいという声も多くなりました。このように、間取りにおける「いる/いらない」の判断が細分化しているように思います。

コロナ禍を経て、リモートワークスペースを設けたいという要望が増えた

日々の忙しさから生じる「できるだけ家事を減らしたい」「掃除を楽にしたい」といった切実さやミニマルライフ的なトレンドも相まって、コンパクトでシンプルな住宅を求める傾向が加速しているのではないでしょうか。

無垢の杉板がふんだんに使われた平屋の住まい

一方で、特にコロナ禍以降はより家の外部環境にスポットが当たっているように感じます。都市部を離れて自然に近い環境で土地を探したり、敷地に対して目一杯建物を建てるのではなく、菜園ができるような庭を設けたり。HOUSE for LOCALの活動に参加している地域工務店としてはもちろん良質な家を建てることにこだわり続けていきますが、家の中と外のつながりやそこでの体験をつくることも含めて計画していくことがこれからの家づくりにおいて大切なことだと考えています。

家の中と外をつなげる中間領域としての軒下空間も重要

豊かに暮らすコツは「塀をなくす」ことにある

2016〜2017年に神戸市北区で開かれた「里山住宅博in神戸」では、HOUSE for LOCAL参加工務店を含む地域の優良工務店が一緒になって、里山と共にある住まいのあり方を提案する住宅展示会を開催しました。展示会に出展されたモデルハウスはすべて販売され、現在は実際に住宅地として機能する「上津台百年集落街区」として、住人の皆さんが暮らしを営んでいらっしゃいます。

共有地としての里山に隣接する、緑あふれる住宅地

里山の風景を家の中に取り込む

この街区では神戸市条例に基づく建築協定が定められており、また独自の設計ルールも設けられているので、一般的な分譲地とは違った統一感のある緑のまち並みが保たれています。その中でも特に有効だったのは、各住戸を隔てるブロック塀をなくして生垣で境界をつくったことです。

分譲地では通常、家の片側にブロック塀を建てて、もう片側はお隣が塀を建てることで隣り合う住戸の間がすべてブロック塀で隔てられます。どこか一世帯でもそれを拒否すればもめ事につながることもしばしば。家づくりの慣例になってしまっているこの「塀をつくる」という概念そのものを今一度考え直すべきなのではないでしょうか。

そんな思いから、そもそも塀のないまちとして計画されたのが里山住宅博でした。ブロック塀がなく、植栽でゆるやかに区切られたお隣同士には、自然と顔の見える有機的な関係性が生まれました。植栽にとってはもちろん、ご近所との人間関係においても風通しの良さが大切です。

植栽でゆるやかに区切る街区の計画

ブロック塀やコンクリートで舗装されたカーポートをつくらず、植栽や砂利を用いて有機的に統一された外構

また、隣接する里山の持分を各住戸で共有しており、住人による自治会で里山の手入れや果樹の収穫、季節ごとの子ども向けイベントなどが催されています。ただ自分の家を所有するだけでなく、まちや里山を共有しているという感覚を持つことで家の外にも居場所が生まれているのです。

住人による竹林整備の様子。大人も子どもも、自分たちの里山でタケノコ掘りに夢中です。

しかし、工務店が通常依頼を受けるような単独の家づくりでは塀のない住宅地をつくることはほぼ不可能に近い。だからこそ、里山住宅博のようにまとまった土地で理想の家づくり、ひいては街づくりを提案する機会をつくりたい、というのがHOUSE for LOCALのメンバーたちの目標です。

今考える「集まって住む」まちのあり方 〜唐櫃台プロジェクト〜

HOUSE for LOCALの6社でふたたび里山住宅博のようなまちづくりができないかと構想している中で、神戸市北区唐櫃台の解体された市営住宅跡地の活用案を神戸市へ自主的に提案したことがあります。私たちが考える理想のまちの絵を建築家の趙海光さんに描いていただきました。ぜひこのようなプロジェクトを実現したいと思いますので、ここで展望を語らせてください。

市営住宅跡地を菜園付き住宅地として活用する構想(設計:趙海光)

高度経済成長期に大量生産された団地は、より多くの世帯に住宅が供給できるようにと計画されました。しかし今、改めて「集まって住む」ことを考えると、必要とされるのは効率や生産性ではなく豊かな共有部分やゆるやかなコミュニティなのではないでしょうか。コンパクトシティ化で都市部の駅近マンションに人口が集中するなか、唐櫃台のような郊外においてはいっそう新しい住宅地のあり方が求められていくと考えられます。

そこでこのプロジェクトでは、共有菜園や果樹林のある「菜園付き住宅」として構想しました。かつて農地や山を開発して住宅地にしたような場所は、もともとの農地や山といった概念に近い環境に戻していくのが正攻法だろうと考えたのです。

共有菜園を中心に住戸が並ぶ。各住戸にも小さな菜園がある計画(設計:趙海光)

冒頭で述べたように、これから家自体は小規模化していくことが予想されます。そのため、建物は4間(7.2m)角の母屋と水回りのみの下屋が付随する、夫婦2人で最小限程度の平屋として設計してみました。建物をコンパクトにすることで敷地にゆとりが生まれ、各住戸に菜園のできる庭と1台分の駐車スペースが設けられます。また、軒を深くすることで快適に過ごせる屋外空間もでき、家と庭、そしてその中間領域としての軒下空間をあわせて楽しんでもらえるプランとしました。

子ども部屋や書斎などの個室を拡充したい場合には、その時々で離れとして「増築する」という考え方を採用しています。はじめから子ども部屋をいくつも想定していると、子どもたちが巣立ったあとに夫婦だけではその大きな家を持て余すという問題が出てくるためです。かつての農家住宅的な考え方を踏襲し、子ども部屋などの個室は必要に応じてつくったり、なくしたりできるという計画にしました。

家の間取りや外構計画は一定のルールを設けることで街並みを整える(設計:趙海光)

まちごとつくるにあたって実現したいのは、前述の里山住宅博のようにブロック塀をなくすこと。また、2台目以降の駐車場を集約し、各住戸への横付けは1台までとすること。そして菜園や果樹林などの共有地をつくること。経済的にも環境的にも不安の尽きないこれからの時代は、住む場所の共同体的コミュニティーが大切になってくると考えているからです。そのようなコンセプトのまちに共感する人々が集まれば、有機的なまちのあり方が実現できるのではないでしょうか。

今後もHOUSE for LOCALでは、上記のような家づくり、街づくりを実施できるように活動を続けて参ります。共感いただける方の中で、上記のようなプロジェクトが小さくとも叶えられそうな土地の情報などお持ちでしたらぜひお問い合わせいただけますと幸いです!

家の中も外も豊かな街づくりを実現させたい

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