column 2018.4.27
 
Rトピックス

KITANOMAD始めます。

小泉寛明(神戸R不動産/有限会社Lusie)
 

local food hub, shared office , outdoor fitness & art。新しいローカルをつくる拠点を、神戸・北野坂で立ち上げました。5月から本格稼働。名前は「KITANOMAD(キタノマド)」。ぜひお立ち寄りください。

KITANOMADの中心施設のシェアオフィス内部。

ローカルに眠っている仕事はたくさんある

「LOCAL(ローカル)」という言葉がさまざまなメディアや活動の中で使われ、多くの人々の関心が「ローカル経済」という概念に向けられていると言えます。「real local」や「eat local kobe」というサイトを運営する我々もそうした動きに関心を寄せている一人でもあり、ローカル経済づくりに寄与できるようなことができないか、微力ながらも考え日々活動しています。

「ローカル経済」と言えば、先日神戸市さん主催のイベントに呼んで頂きお話をする機会があったのですが、そこでテーマとなっていたのは神戸市における創造産業(クリエイティブ産業)の仕事は約3000億円分域外流失をしており、それをなんとか域内に還流させる流れをつくりたいということでした。神戸市内の大企業の仕事が、東京や大阪の大手の広告代理店、印刷会社、デザイン会社、設計事務所などに流れ、東京や大阪から営業や担当者が神戸に出向いてきて仕事をしているものと想像します。我々も、実際神戸市内の発注主の仕事を、東京の代理店から受注し、神戸の出先スタッフとして仕事したことがあります(すぐ近くにいる発注主から東京の会社に指示がいき、そして東京から我々に指示がくるという、なんとも「??」な体験をしたことがあります。)

こうしたことは、創造産業のみならず多くの産業で行われていることでしょう。最近「ローカル」という言葉や、「ローカル経済」という概念が注目を浴びるのは、「なぜ近くにいる人に仕事をお願いしないのか?」、もっと正確に言うと、「なぜ、近くの人に仕事を頼むのができない社会になってしまったのか?」ということかもしれません。

どうやって地方都市で仕事を生み出していくのか。大きなテーマです。

神戸の大企業の担当者の方にクリエイティブ部門の仕事について「なぜ近くの人に仕事をお願いしないのか?」と聞いてみました。すると答えは、「神戸にお願いしたい人がいない」と。先ほどの神戸市さん分析の通り創造産業(クリエイティブ産業)は、この数十年の期間を経て、かなりの人が東京や大阪に流れていった印象があります。

僕たちはこうした現象の逆流が始まるのではと感じ、神戸R不動産では6年半前のスタート時より移住の提案を神戸の外に住んでいる人に対して継続的に情報発信を行ってきました。これは、「新しいローカル」は外の人から生まれるのではないかと感じていたとともに、先ほどの神戸の大企業の方のコメントから察するに、時間はかかるだろうが外の人なら掘り起こせる神戸のローカルに眠っている仕事は沢山あると思えたからです。そして移住してくる人たちとローカルを接着するための場づくりとして、「移住者のための事務所」と称しシェアオフィスを細々と運営してきました。

EAT LOCAL KOBEと共に、新しいローカル経済の拠点づくり

KITANOMADがあるのは北野坂の中心部にあるヴィンテージマンションの1階と2階。

また、別の視点ですが、「なぜ我々は遠くの地域から大量流通網で運ばれた野菜を買い、近くにいる農家から野菜を買わないのか?」。言い換えれば、「なぜ我々の社会はなぜ近くの人から野菜を買う方が高くつくような仕組みになってしまったのか?」

神戸市中心部から30分車で走ったところにたくさんの農家がいるのに、「なぜ神戸市内のスーパーで神戸産の野菜を見かけないのか? 近くにいる農家から野菜を買わないのか?」という疑問からEAT LOCAL KOBEという活動を3年前にスタートしました。詳しい経緯はこちらのマネージャー募集記事(募集終了)をご覧いただければと思いますが、その疑問を解くためファーマーズマーケットをスタートし、以降本当に少しづつですが神戸近郊の農家の野菜が神戸市中心部の人々の目に見え、手に入るようになってきました。

2階のオフィスから北野坂を望む。

ヘリンボーンの床が、KITANOMAD内で随所に使われています。

そしてこの度、シェアオフィス・移住者のための事務所を移転し、EAT LOCAL KOBEの拠点づくりと合流させ、これまでよりもより強く「新しいローカル経済の循環づくり」を目指し、複数の事業者・フリーランサーによるシェア拠点「KITANOMAD」をオープンする運びとなりました。

KITANOMADを構成する要素1:local food

FARMSTANDのスタッフメンバーです。

KITANOMADは主に3つの要素で構成されています。そのひとつが「EAT LOCAL KOBE FARMSTAND」。前述のファーマーズマーケットでは「ほぼ毎週」神戸産の野菜を買ってもらえる機会づくりを行ってきましたが、こちらでは、神戸産野菜や丁寧に手作りされた食品を「毎日」手にいれられる場作りにチャレンジします。できる限り農家さんから野菜を買い取り販売、また調理したものを食事スペースで提供することにより、ローカルな生産者がつくる野菜を買い取り・余すことなく使い切る循環の仕組みをつくり、若いこれからの農家を支えることが主目的です。同じ建物内、1Fのカフェ「DINING SOCIAL」では、FARMSTANDに集まった神戸の野菜を使った本格的な料理を楽しんで頂けます。

EAT LOCAL KOBE FARMERS MARKETに参加する農家さんの野菜が日々店頭に並びます。

野菜の販売のみならず、イートインスペースもあります。

これから施設内の賃貸区画を食事業者のアトリエとして募集するのですが、そこでも、できる限り神戸の食材を使ってもらい野菜や食材を加工することにより多くの神戸の農家さんの野菜を買い取り、神戸の農家を支えてもらえればと思っています。

食事業者のアトリエスペース募集記事はこちら

店頭の食材を余すことなくキッチンで加工調理をしています。

FARMSTANDの隣にはダイニングソシアルがあり、神戸野菜を中心とした本格的な料理が楽しめます。

KITANOMADを構成する要素2:outdoor fitness

2つ目は2Fに入るアウトフィットネスクラブ「毎日登山」です。兼ねてからスポーツへのアクセスし易さが神戸の街の圧倒的な資源だと感じていました。家の裏には山があり、すぐ山登りしたり、トレイルランする環境がある。海に行こうと思えば、電車や車で20分も行けば目と鼻の先。しかし、ある人の「実際に山や海を使おうとする人は少ない」とのコメントに思わず頷いてしまいました。灯台もと暗し、この資源を十分に堪能できていないのかもしれない。そんなことを考えていた矢先、ひょんな出会いから、KITANOMADでは、株式会社BEACH TOWNさんにトレイルランニング兼ヨガクラブを運営して頂けることになりました。大手スポーツクラブに入って運動するのも良いけど、「毎日登山」は地元の山を再発見し、多様なインストラクターのもと、毎日運動をして、体をリラックスさせようという施設です。

神戸裏山を毎日登山するという神戸の伝統風習を施設名称とされています。

日々、ヨガ・トレッキングなどを含む、プログラムが行われています。

KITANOMADを構成する要素3:shared office

3つ目はシェアオフィスです。新しいシェアオフィスは、旧来のスペースから面積が約3倍になりました。共用部スペースも充実し、とても心地よいコモンルームと北野坂を望むバルコニーがあり、自分自身もここで仕事をするのを気に入っています。シェアオフィスも募集を本格的にスタートしましたので、ご覧ください(シェアオフィスの募集ページはこちら)。

シェアオフィスのコモンスペース。打ち合わせやイベントに利用されるスペースです。

近くに住む絵本画家・植田真さんによる絵がこちらの施設の壁面を飾る。

固定席ブースよりコモンスペースを眺める。

ブックシェアリングクラブもできればよいと思っています。

オフィス内観。

ここ「KITANOMAD」は複数の事業者やフリーランサーによるシェア拠点です。農業や食関連施設、トレイルラン・ヨガクラブ、のみならず、アーティストのアトリエや、本屋兼ギャラリー、写真スタジオなども入居しています。また、入居している人々やその組織に帰属する人々の多くは、それぞれが独立した事業者であり、さまざまな形のギブアンドテイクな状況で仕事をしています。例えば、FARMSTANDのスタッフはみんな副業を持ち、コーヒー職人もいれば、料理研究家、ライター、そして農家もいます。すでに自分の形が確立した事業者もいれば、まだ今後の方向を模索中ここを一時的な宿り木にしている人もいます。シェアオフィスには大企業を辞めて、独立したての人もいます。

1階エントランス入って正面にある、KITSUNE BOOK & ART。

奈良からnanatsumoriさんが写真スタジオをオープンしました。

新しいローカルの動きを発見し共有するきっかけとなる場

KITANOMADオープン前の告知コラムでも書きましたが、専門分野や職種は違うけれど同じような価値観を持つ人たちが一緒に働いたり過ごしたりする中で生まれる多種多様な刺激が、それぞれの意識をより覚醒させ、新しい“うねり”をつくり出すと感じています。また、面白い人材が集まることによって、新しい経済のかたちも形づくられるのではないかと確信しています。それを私たちは「コーポラティブ・エコノミー(共同組合的な経済)」と呼びたいと思います。

様々な事業者が互いを助け合い新しいローカル経済の循環づくりを目指しています。

日々食するものを知り合いの生産者から買い、ローカルの生産者を支えたい。
ローカルの山に気軽に登りたい。
日常的にアートや興味深い本に触れられるローカルの環境を持ちたい。
ローカルの人と、神戸に移ってくるフレッシュな視点を持った事業者たちと一緒に仕事をしたい。

新しい船出に「ローカル経済の循環づくり」と大げさな話をしました。実はすべてがまだまだ手探りの状態です。ですが、KITANOMADという場が、神戸の新しいローカルの動きを発見し共有するきっかけになれば嬉しいなと思っています。末長いお付合いよろしくお願いします!

KITANOMADのオフィシャルサイト

食アトリエの物件募集ページ「KITANOMAD -キッチンアトリエ-
シェアオフィスの物件募集ページ「KITANOMAD -事務所-

連載記事一覧
 
おすすめコラム
 
カテゴリホーム
コラムカテゴリー
 
特徴 フリーワード
フリーワード検索
関連サービス
 
メールサービス
 
SNS
 
関連コンテンツ
 
R不動産の本
 
公共R不動産のプロジェクトスタディ

ローカルエコノミーのつくり方
ミッドサイズの都市から変わる
仕事と経済のしくみ

「顔の見える経済」をつくる




公共R不動産のプロジェクトスタディ

公共R不動産の
プロジェクトスタディ

公民連携のしくみとデザイン




公共R不動産のプロジェクトスタディ

CREATIVE LOCAL
エリアリノベーション海外編

衰退の先のクリエイティブな風景




団地のはなし 〜彼女と団地の8つの物語〜

団地のはなし
〜彼女と団地の8つの物語〜

今を時めく女性たちが描く




エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ

エリアリノベーション:
変化の構造とローカライズ

新たなエリア形成手法を探る




PUBLIC DESIGN 新しい公共空間のつくりかた

PUBLIC DESIGN
新しい公共空間のつくりかた

資本主義の新しい姿を見つける




[団地を楽しむ教科書] 暮らしと。

[団地を楽しむ教科書]
暮らしと。

求めていた風景がここにあった




全国のR不動産

全国のR不動産:面白く
ローカルに住むためのガイド

住み方も働き方ももっと自由に




RePUBLIC 公共空間のリノベーション

RePUBLIC
公共空間のリノベーション

退屈な空間をわくわくする場所に






toolbox 家を編集するために

家づくりのアイデアカタログ






団地に住もう! 東京R不動産

団地の今と未来を楽しむヒント






だから、僕らはこの働き方を選
んだ 東京R不動産のフリーエー
ジェント・スタイル






都市をリノベーション

再生の鍵となる3つの手法






東京R不動産(文庫版)

物件と人が生み出すストーリー






東京R不動産2
(realtokyoestate)

7年分のエピソードを凝縮






「新しい郊外」の家
(RELAX REAL ESTATE LIBRARY)

房総の海辺で二拠点居住実験






東京R不動産

物件と人が生み出すストーリー






POST‐OFFICE―
ワークスペース改造計画

働き方の既成概念を変える本